はじめに。
茶道におけるお茶の種類には、大きく分けて薄茶と濃茶の2種類があります。
(厳密に言えば、煎茶などもありますが、今回は裏千家でのお話です。)
一般的に皆さんが目にしたり口にしたりする、いわゆるお抹茶と呼ばれるものは薄茶です。
薄茶は、湯の量が多く、空気を多く含んでいるため、サラッとしていて口当たりが良く、初心者の方でも飲みやすくなっています。
一方、濃茶はその名の通り、湯の量が薄茶とは違ってかなり少ないため、味がより濃く、ドロッとしています。
今回は、薄茶と濃茶のちがいを様々な面からご紹介します。
➡ 薄茶とは、濃茶とは何なのか。
➡ 2種類のちがいは何なのか。
定義や点て方、お道具など様々な点から知ることができます。
薄茶と濃茶のちがいは?
茶道の世界では、薄茶は”お薄“、濃茶は”お濃茶“とそれぞれこのような通称で呼ばれます。
ではさっそく、様々な面から2種類のちがいを見ていきましょう。
定義 -茶道辞典より一部引用
・薄茶(お薄)
抹茶の一種。濃茶に対していう。濃茶用の茶は新芽のごく柔らかい部分であるが、薄茶用のはそれよりやや範囲が広い。濃茶にくらべ味わいは淡白である。
・濃茶(お濃茶):
抹茶の一種。薄茶に対していう。一般に薄茶は普通の茶樹より採るが、濃茶は古木の若芽を採る。一碗に一客分三杓程度の分量で掬出し、湯を注ぎ、茶筅で練る。数名の連客飲回しとなる(各服点の場合もある)。茶銘は各流家元によって種々付けられている。
つまり要約すると、以下のようにそれぞれ使用する葉茶がちがうことが分かります。
・濃茶(お濃茶):若芽だけで作られたもの。
お茶の点て方/練り方
・薄茶(お薄):
湯の量を多く入れて、シャバシャバと空気を含ませ、
ふんわりきめ細かな泡を素早く点てる。
おおよその茶と湯の割合は、茶:湯=1:3
お客さんが複数名いる場合も、お客さん一人ひとりに
3口半程の量のお茶を点てて差し上げます。
・濃茶(お濃茶):
湯の量は少なめで、茶がまんべんなく湯と混ざり合い、
照りが出てくるように丁寧に練り上げる。
おおよその茶と湯の割合は、茶:湯=3:1
お客さんの人数分だけ一つのお茶碗に濃茶を練ります。
ここで注目したいのが、薄茶と濃茶では以下の言い方のちがいがあります。
・濃茶(お濃茶):「練る」
これは、薄茶は素早く泡が立つようにするのに対し、濃茶では泡が立たないようしっかりと茶を溶かす、という工程のちがいから区別されています。
また、一つの茶碗に入れるお茶の量にもちがいがあります。
・濃茶(お濃茶):一碗に人数分入れる = 3口半×人数分
厳密には点て方、練り方だけでなく、お点前にもいくつかのちがいがあるのですが、薄茶点前と濃茶点前についてはまた別の記事で紹介いたします。
客側の頂き方
お客さんとしてお茶を頂く際にも、以下のようなちがいがあります。
・薄茶(お薄):
お客さん一人ひとり別々でに薄茶が振舞われるので、
お客さんは、お茶碗に入った薄茶を一人で頂くことができます。
次に待っているお客さんは、先のお客さんと同じお茶碗、
もしくは別のお茶碗に薄茶を点ててもらい、順番に頂きます。
茶器には人数分より多めに入っているので、
お客さんが申し出ればおかわりをすることが可能です。
・濃茶(お濃茶):
お客さん全員が一つのお茶碗でちょっとずつ飲んで回します。
一人につき3口半程頂いて、次のお客さんに渡します。
茶器には人数分しか入っていないため、
一人3口半より多く飲むと、後に控えている人が
少量しか飲めなくなってしまいます。
ちなみに3口半とは、三度お茶を飲み込み、
最後に喫い切りをする(蕎麦をすするようにズズッと
お茶を飲む)ことを言います。
(➡具体的なお茶の頂き方はこちらの記事を参照ください)
このようにお茶の点て方、練り方が違えば、客側の頂き方も変わってきます。
・濃茶(お濃茶):「連客飲み回し」
お道具
使用するお道具にも様々なちがいがあります。
今回は以下の茶碗、茶筅、茶器のちがいを紹介いたします。
茶碗
・薄茶:どんな柄や形でも使用できます。
夏にはガラス製の涼しげなものや平茶碗★1、
冬には湯が冷めにくい筒茶碗★2など、
季節毎に柄や形、色合いを使い分ける。
・濃茶:重厚感のある無地の茶碗。
樂焼や萩焼などの格式が高く、
湯が冷めにくい重厚感のあるもの。
茶筅
茶筅とは、お茶を点てる、練るときに使用するものです。
役割としては、泡立て器のようなものですね。
・薄茶:中荒穂・荒穂★3
だまにならないようにゆっくりと練る必要があるため、
荒めの茶筅を使用します。
・濃茶:数穂★4
きめ細かな泡を作るようにに点てるため、
細い茶筅を使用します。
茶器
茶器とは、お抹茶を入れておく容器のことです。
・薄茶:棗★5、もしくは薄器★6
茶碗と同じく、状況に応じて使い分ける。
・濃茶:茶入★7
陶器に牙蓋(象牙で作られた蓋)を合わせたものを使用する。
(➡お道具についての詳しい説明はこちらの記事を参照)
お道具のちがいからわかるように、薄茶では華やかなお道具を使ってお客さんを楽しませながら、濃茶では厳粛な空間でお茶を差し上げます。
[注釈]
★1平茶碗:夏の涼しい時期に、湯が冷めやすいように、通常の茶碗よりも浅く、平べったい。
★2筒茶碗:2月の極寒の時期に、湯が冷めないように、通常の茶碗よりも高さがあり、口が狭くなっている。
★3中荒穂・荒穂:穂数が32~50本程度の茶筅。薄茶に使う茶筅に比べて荒いため、湯に混じったお抹茶がだまになりにくく、しっかりと練ることができる。
★4数穂:穂数が70本前後の茶筅。泡立て器のように細かくシャバシャバと振ることができ、きめ細かな泡を作ることができる。
★5棗:“薄茶器の一種。植物の棗の実に形が似るところからの名称。基本的には、黒塗で、甲にやや丸みを持つ蓋が七対三ほどの割で上方に合口をなし、身は下方に行くにしたがってややすぼまり、底が少し上がって”いる。
★6薄器:薄茶を入れる容器で棗以外のものの総称。
★7茶入:“濃茶を入れて手前に用いる陶製の小壺。通常、象牙の蓋を伴い、名物裂などの仕覆(袋)を着せて用いられ、挽家に納め、さらに箱に入れて保管する。”
まとめ。
今回は、薄茶と濃茶のちがいを紹介いたしました。
様々なちがいを以下の表にまとめてみましたのでご覧ください。
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